9月7館目:民家の画家 向井潤吉 人物交流記/世田谷美術館

水戸に行った翌日、翌週には子供たちと一緒に鑑賞しなければならなかったので、頑張って見に行ってきました。向井潤吉は世田美の分館で古民家を題材にした風景画をまとめてみたことがある程度で、世田美とはゆかりの深い画家ではありながらあまり深く知らない画家でした。今回は、本館での企画展示ということで、全画業を網羅するかなり出品数の多い展示でした。11時半ころから見始めて、思ったよりも時間がかかり、空腹で倒れそうになりながら見届けました。もしこれから行く方は間に一度カフェで休憩したらよいかも。出口でスタンプを押してもらうと再入場できます。

私にとって一番興味深かったのは20代後半に2年間パリに滞在した間の作品群。向井はメモ魔だったそうで、パリでの2年間の生活についての記述が掲示されていました。それによると、14区に居を構えた向井は、朝はカフェでクロワッサン2個とコーヒーを飲み、パンにハム(余裕がなくなるとチーズになる)を挟んだサンドウィッチを持って地下鉄でルーブル美術館に模写に出かけます。午前中いっぱい模写をして、忙しいときは模写をしながら、そうでないときはトイレでサンドウィッチを食べ、最後に1日1室だけルーブルの展示をじっくりと見たら徒歩で4キロほどの道のりを帰ります。午後は自宅アトリエで自分の自由な作品を制作し(何点か展示があり、スーティン風の作品でした)、夕食後はモンパルナスのデッサン研究所でデッサンを学ぶ。そんな2年間を過ごしたのだそうです。とにかく貧乏だったとのことなのですが、なんて豊かな2年間を過ごしたのだろうと胸が熱くなりました。帰国後は戦争画、そして戦後は日本の古民家を描くことになる向井の若き日の夢のような時間を感じる展示コーナーは私の一番のお気に入りになりました。

古民家のコーナーでは旅のエッセイも幾つか展示されており、まず作品を観てからエッセイを読みまわったのですが、納得したことが一つ。作品を観たとき、キラキラと青空が輝く作品よりも曇天・雨天・霧が煙る情景を描いたものに良いものが多いと感じました。一番気に入ったのは「最上川早春」で、前景に雪解け水で水量の増した最上川が滔々と流れる様をとらえた作品でした。北国の早春と言えば関東の人間から見ると緑はまだ弱々しく色は乏しい。そのあとエッセイを読むと、夏の緑が濃すぎる風景はつまらないとの記述を見つけました。例えば私が里山の風景を写真に撮るなら、やっぱり真夏よりは晴天の春や秋がいいなと思う。けれど、画家が繊細な色の風景を求めるとき、そこからもう半シーズンほどずれる初春や初冬を選ぶのかもしれない。そして、強い太陽の光は必ずしも必要ないのかも?読んでからもう一度展示作品をぐるりと見回すと、それが実感できた。

途中、出版物や習作の水彩画なども面白く見つつ、最後の展示室「白と黒の会」のコーナーへ。ここには向井と交流のあった世田谷在住の画家・彫刻家の作品が並んでいる。「白と黒の会」というのは、これらの芸術家のグループで、といっても画壇における派閥みたいなグループではなく、世田谷という地域でつながった飲み会グループなのだ。「白と黒」の由来は、飲み会の最初に10センチ角程度の白い紙が配られ、そこに黒いインクで各々が作品をしたためることに由来するそうで、その作品をメンバーの中の新聞社勤務の者が社に持ち帰ると挿絵として売れたのだそうだ。それが次回の飲み代になる、という永遠にタダ酒が飲める会、なのだそうです。ここの部屋は、向井作品を延々と見続けた最後に来ると、一服の清涼剤以上にエキサイティングな展示室で、気分が高揚したまま会場を後にできました。

ここからは余談。最後の展示室には向井潤吉の弟さんの向井良吉さんの彫刻作品があり、翌週、私が一緒に展示を見た子供たちは、この作品に興味を示していました。
世田美には常設に向井良吉さんの作品が2点あります。子供たちに「他のも見る?」と聞くと「見たい!」とうれしい反応。まずは地下の創作の広場で「花と女性」という作品を宝探ししながら見ると、子供が「楽しい~!」と盛り上がってくれておばちゃん大感激。(ちなみに地下には展示室はありませんが、エレベーター脇には柳原義達のかっこいい作品が、その先には谷内六郎のモザイクもあります。)そのあと外の彫刻作品を観に行くと、もしかすると子供って絵画より彫刻が好きなのかな?ほかの作品も抽象作品も含めてとても反応が良かった。

向井潤吉のことに戻ると、メモ魔だった向井潤吉は文才もありエッセイを多数残しているそうで、展示室にもかなりのボリュームでそれらが紹介されていたのですが、読み物として結構面白かった。で、それらのエッセイをまとめた書籍「草屋根と絵筆」が本展に合わせて発売されたそうです。ミュージアムショップにも売っていましたが、私はやっと世田谷区の図書館に入荷されたのを借りてきたところです。拾い読みになるかもしれないけれど、読むのが楽しみです。

# by fumiko212 | 2018-10-05 22:05 | アート | Trackback | Comments(0)

9月6館目:笠間日動美術館

水戸芸術館の次に向かったのが(市場食堂経由で)笠間日動美術館。日動というのはあの日動画廊の関係らしい。水戸に行くなら偕楽園も行きたいな~なんて思ってたけど、ご一緒したYさんがこの美術館に行ってみたいということで美術館のサイトを観たら、私が好んで見る近代洋画作品が常設であるそうで、行ってみたくなった!と言っても、企画展は興味ないし常設のフランス館だけ観れれば充分。などと思いながらゴー!水戸からはかなりと距離があって、車じゃなければ(自分なら車でもどうしようかな、、、と思う)ハシゴは厳しかった。社長、ありがとうございます。

チケット売り場の前にはヘンリー・ムーアのブロンズがあって、あ、彫刻もあるのかあと思いつつ企画展示館はパスして敷地の奥にあるフランス館へ向かいます。向かう先には野外彫刻庭園の表示。なんかこれもしかして期待できるんじゃないか?と、にわかにわくわくしだす私たち。戸外の渡廊下は青々とした楓に囲まれていて、紅葉の時期に来たら最高なのでは!(しかしこの時我々は藪蚊の襲来を受けていた、、、)
彫刻作品のラインナップはさすが日動画廊!なんだと思います。すごく充実。屋外庭園だけでなく、フランス館(テラスにも)、パレット館、企画展示館にも作品が点在し見ごたえがありました。パレット館に三宅一樹先生の木彫がありまして、今年になって世田美で知った作家さんなのですが、まだ作品を拝見したことがなく、思わぬところで作品を観られて感激でした。

フランス館は油彩画、デッサンの所蔵品の展示で、HPを見ると展示替えがあるようですが、私たちが行った日は印象派~戦後まで、充実のラインナップでした。それを私たちしかいない展示室で(蚊はいたけど)存分に鑑賞できるという夢のような空間でした。マティスが1枚もなかったのがちょっと残念(所蔵はしている模様)。思わぬ収穫はフランソワーズ・ジローの作品があったこと。この夏にジローがピカソのことを書いた本を読んでいたので、彼女の作品を観て見たかった。年代、どうだったかな、、、ピカソのそばでああいう作品を制作する度胸、、、すごいな。

先ほど書いたパレット館は、展示室の壁を埋め尽くす画家のパレットの展示がメインで、これが圧巻の面白さ。使っていた絵の具がそのまま固まったパレットの中心に小さな作品を描いたものなど、絵を描かない私でもその画家の作品を思い出しながらパレットを見るとなるほど~と思ったり、このパレットの持ち主はどういう絵を描くのだろう?と想像したり、永遠に楽しめそうな空間でした。クレーターのように淵にぐるりと固まった絵の具に囲まれたパレット、、、あれはどういうことなんだろうか?掃除しないで新たに絵の具を絞り出し続けてああなったんだろうけど、、、、掃除しちゃうと昨日からのつながりがわからなくなっちゃうから継ぎ足しながら使ってたのかなあ。

だんだん閉館時間が気になりだしたけど、渡廊下のカフェで一服して、駆け足で企画展示館へ。ここで面白かったのは「鴨居玲の部屋」という常設の展示。写真を見ると舞台役者のような濃い風貌をした男なのですが、「自画像の画家」と称された人物なのだとか。作品や遺品を展示したこの部屋の濃密な空気に画家の生々しい存在感を感じました。特に、死後アトリエに残されていたという鉛筆による習作の数々に惹かれました。画家はこうして絶えず手を動かしているのだろうな、、、
もう一つ良かったのが世界の子供たちの絵画作品の展示。偶然にも水戸芸術館では地元の小中学生の作品を観て感心したばかりだったけど、ここには恐ろしささえ感じる完成度の高い作品が並んでいました。南米、アジア、東欧など、私が頻繁に観る西ヨーロッパや日本の画家の絵画の展覧会ではなじみの薄い国の子供たちの作品にこそドキリとする作品があったりして、私が観ているアートはまだほんの一部なのだと実感させられた。

当初の予想を超えて閉館ぎりぎりまで楽しみつくして美術館を後にしました。決して広すぎないので、疲れないけど大充実の展示でした。また行きたい。

# by fumiko212 | 2018-10-05 21:20 | アート | Trackback | Comments(0)

9月5館目:内藤礼 明るい地上には あなたの姿が見える/水戸芸術館現代美術ギャラリー

久々に美術班遠足で水戸に行ってきました。きっかけは内藤礼さんの個展。私が今のところ国内で一番好きな美術館が瀬戸内海の豊島にある豊島美術館でして、この美術館は内藤礼さんの「母型」という作品だけを展示している美術館なのです。内藤礼さんの作品を他にたくさん見たことがあるわけではなかったので、少々遠いけれどこの展覧会にはぜひ行ってみたいと思っていました。美術班に緩めにお声掛けしたものの、暑いさなかだったので、涼しくなったらね~とそのまま放置になってた。日曜美術館のアートシーンに出たり、朝日新聞の夕刊に出たりして、ぼちぼち会期終了も近づいてきて、天気予報をにらみつつもう一回お声掛けしたところ、結局全員(4人)で行けた~。しかも社長に車を出してもらえてゴー!お世話になります。
水戸芸術館と言えば、あのグネグネしたタワーがランドマークになっていて、まずはそれを観るのが楽しみだった。タワーを知ったきっかけは、2011年の震災の時。水戸の放送局からの映像に必ず写っていて、あれはなんだろう?と思っていました。インター降りたくらいから遠くに発見できるのでは?と思っていましたが、結構近づいてからやっと見えました。近くで見て、正三角形を組み合わせた多面体だと知りました。満足。

内藤礼さんの展示は自然光のみで行われているそうで、雨曇りの天気予報だったこの日、私たちが着いた時間は曇天の光での鑑賞になりました。晴天だとどうだったかはわからないけれど、私は結構好きな感じの光の加減だった。私が思っている内藤さんの作品のイメージから大きく外れない、繊細な表現で空間を作っている印象。監視員の方々が目を光らせていて、そこから先は作品があります~と必死に鑑賞者をサポートしてくださっています。とても必要なのですが、あの真っ白な空間に紺色のユニフォームの監視員さんがやたら目立ったのが何となく残念、、、と思ってしまった。鑑賞者の方が人数は多いのにそれはあんまり全然気にならないのですが、監視員さんは神経をとがらせているからなのか、どうしても存在感が出ちゃうんだろうな。誤解のないように書いておくと、監視員さんがいない方が良いというのではないんです。視力が怪しい私は作品リストに書いてあるのが見つけられず、教えてもらったりして、いつも以上にお世話になりました。つまり、きっとそれくらい作品が繊細だったんだと思う。こういう展示って難しいな~。監視員さんがラフな格好をしてたら違ったのかなあ。豊島美術館は確かそんな感じだった。

繊細、繊細と繰り返し書いたけど、あの作品を今思い返すと、作家の勇気の結晶のように思えてくる。限られたモチーフを複数の部屋にちりばめて1つの世界観を提示する。その中でたった1つしかないモチーフもあれば、無数に繰り返されるものもあって、その選択と決定を繰り返して「明るい地上には あなたの姿が見える」を表現したのだから。
印象に残っているのは、暗い廊下から暗い部屋に置いてある2つ並んだ瓶を観たとき景色。その後ろに明るい部屋への入口が見え、その明りによって瓶が背後から照らされ半分だけ明るく光っているように見える。そしてそれが暗い床に反射している。それともう一つが、暗い部屋の床に置いてある小さな鏡に明るい部屋が写り込み、その光が床に反射した景色。

コンサートホールも、そこを本拠地としている楽団も評判がいい水戸芸術館。ロビーに展示されていた子供たちの水彩画も素晴らしかったし、こんな施設が近くにあったら豊かな気持ちがするだろうと羨ましくなる施設でした。来られて良かった。

# by fumiko212 | 2018-09-30 18:04 | アート | Trackback | Comments(0)

9月番外:桑原弘明さんのスコープを観に恵比寿ギャラリーめぐり

ノグチ、メディアアートを見た後は、新宿のヤマハで1時間チェロの練習をし(発表会直前だった)、最後の力を振り絞って恵比寿の2つのギャラリーに出ている桑原弘明さんのスコープを観に行きました。

まずは東口側のMalleという画廊へ。グループ展で桑原さんの作品は2点。1つはガラスドームに入ったもの、スコープは1点。実は長らく桑原さんの作品を観ていなかったのです。いつからか情報を追いかけられなくなって。それが最近、日曜美術館で、青森県立美術館にスコープが展示されているというのを見かけたことで思い出し、ツイッターのアカウントを見つけて、この展示のことを知りました。感覚では10年ぶりくらいじゃないか?と思ってブログを見直したら、2011年に見てました。それでも7年ぶり。何が変わったって、自分が老眼になったのがつらい。あの小さな作品を観られるのか?老眼鏡をかけて見たら何とか、、、自分の記憶もあいまいだけれど、以前見たものよりも一段と小さくなったように感じました。数カ所から光を当てたように記憶していたけれど、今回観たものは1か所からのライトのオン・オフで見るものでした。正直、小さすぎてちょっとよくわからなかった。後日、ご本人が鏡に何が映っているかわかりましたか?とツイートされていて、鏡があったかも思い出せない体たらく、、、情けない、、、同時に展示されていた四谷シモンの「人形の手」。手の木彫、、、最近これに悩まされていたから、なんでこんなに繊細に!!!とくぎ付けになりました。こういう表現もあるのか。

もう1軒は西口のロータリーからアトレの裏に少し坂を上ったところにある、LIBRAIRIE6という画廊。こちらもグループ展に出品されていました。こちらのオーナーは若い女性で、小さな空間に書店も併設されているおしゃれなギャラリー。この方がとても気さくな雰囲気だったので、桑原さんを観るのは実は10年ぶりくらい(その時はそんな感覚だった)なんです、と話したところ、そのころと違って、今はもう桑原さんの作品はとても買えるものではなくなってしまったんですよ~とのことでした。今は新作の個展の3日前から徹夜で並ばないと買えないし、お値段も、、、とのこと。自分のブログを見返すと、2008年の個展のことが書いてあって、作家さんご本人がいくつも空いた明り取りの窓からペンライトで照らしてくださったことが思い出されます。こちらの画廊で見た作品は明り取りの窓が2か所。2008年の作品では6通りの見え方があったようです。作品が一段と小さくなったように感じたので、小ささを追求する方向に進んでおられるのかも?今回の展示品が偶然そういうものだったのかな?この画廊にももう1点スコープ以外の作品が出ていました。文鳥の卵を使ったというこれまた繊細すぎる作品。めまいがしそうです。他の展示作品ではヒグチユウコさんのペン画がすごかった。年明けに世田谷文学館で個展があるそうなので是非とも見たくなりました。それから山下陽子さんという方のコラージュ作品も良かった。

日曜美術館の話に戻ると、青森でスコープが展示されていた企画展は「めがねと旅する美術館」というもので、桑原さんのスコープ作品のタイトルは「星を売る店」。ムットーニもテーマにした稲垣足穂の同名の短編小説が題材なのではないかな?観てみたい。この展示、現在は島根に巡回中で、11月には静岡県立美術館に巡回するそうなのです。スコープ以外もテーマ自体が面白そう。忘れないようにしないと~。

# by fumiko212 | 2018-09-24 02:26 | アート | Trackback | Comments(0)

9月4館目:オープン・スペース2018イン・トランジション/NTTインターコミュニケーション・センター

オペラシティ内にぐるっとパスで入れる施設がもう1か所あったので頑張ってハシゴした。受付でぐるっとパスを出すと、現在の展示は無料なので必要ありません、と言われてしまった。でもスタンプは押しますよ~とのことでいただきました。(スタンプを押す場所がついてる)

チームラボでデジタルアートに親しんだけど、あれ以上に面白いものってあるのかな?といぶかって、さらっと見ようと荷物を持ったまま見始めたら、面白い!とロッカーへ逆戻り。自分が輪切りになってオブジェの中のモニターに映る作品とか、自分の動きをAIが学習して展開していく作品とか、一人でカメラの前で暴れまくってしまった。ちゃんと覚えてくれました。

そんな最先端技術の作品が多数ある中で、私が一番面白かったのはもっとアナログな作品。電話ボックスの前に6だか8画面のモニターがあり、それぞれいろんな国や場所の電話機が写ってる。それぞれの画面で物語はすでに始まっていて、受話器を持ち上げるとその中の1つが明るくなって自分がそこに写る電話機に電話をかけている状況になる。誰かが出て話し始めると受話器からあっち側の音が聞こえてくる。受話器を戻してもう一度上げると別の画面へ、、、と結局全部の映像分受話器を上げてしまった。

解説を読まずにざざっと見て回っただけだったけど結構楽しめました。最近、不意にめまいが出ることがあるので、VR作品とか密室みたいなのにはチャレンジできなかったけど、ハシゴじゃなくて単独で見に行ったら、もう少し体力が残っていて、解説をじっくり読みながら体験できたらもっと面白かったと思う。来年3月までやっているので、チャンスがあればもう一回行ってもいいかな。たぶん行けないけど。

# by fumiko212 | 2018-09-24 01:47 | アート | Trackback | Comments(0)