2018年 10月 05日 ( 2 )

9月7館目:民家の画家 向井潤吉 人物交流記/世田谷美術館

水戸に行った翌日、翌週には子供たちと一緒に鑑賞しなければならなかったので、頑張って見に行ってきました。向井潤吉は世田美の分館で古民家を題材にした風景画をまとめてみたことがある程度で、世田美とはゆかりの深い画家ではありながらあまり深く知らない画家でした。今回は、本館での企画展示ということで、全画業を網羅するかなり出品数の多い展示でした。11時半ころから見始めて、思ったよりも時間がかかり、空腹で倒れそうになりながら見届けました。もしこれから行く方は間に一度カフェで休憩したらよいかも。出口でスタンプを押してもらうと再入場できます。

私にとって一番興味深かったのは20代後半に2年間パリに滞在した間の作品群。向井はメモ魔だったそうで、パリでの2年間の生活についての記述が掲示されていました。それによると、14区に居を構えた向井は、朝はカフェでクロワッサン2個とコーヒーを飲み、パンにハム(余裕がなくなるとチーズになる)を挟んだサンドウィッチを持って地下鉄でルーブル美術館に模写に出かけます。午前中いっぱい模写をして、忙しいときは模写をしながら、そうでないときはトイレでサンドウィッチを食べ、最後に1日1室だけルーブルの展示をじっくりと見たら徒歩で4キロほどの道のりを帰ります。午後は自宅アトリエで自分の自由な作品を制作し(何点か展示があり、スーティン風の作品でした)、夕食後はモンパルナスのデッサン研究所でデッサンを学ぶ。そんな2年間を過ごしたのだそうです。とにかく貧乏だったとのことなのですが、なんて豊かな2年間を過ごしたのだろうと胸が熱くなりました。帰国後は戦争画、そして戦後は日本の古民家を描くことになる向井の若き日の夢のような時間を感じる展示コーナーは私の一番のお気に入りになりました。

古民家のコーナーでは旅のエッセイも幾つか展示されており、まず作品を観てからエッセイを読みまわったのですが、納得したことが一つ。作品を観たとき、キラキラと青空が輝く作品よりも曇天・雨天・霧が煙る情景を描いたものに良いものが多いと感じました。一番気に入ったのは「最上川早春」で、前景に雪解け水で水量の増した最上川が滔々と流れる様をとらえた作品でした。北国の早春と言えば関東の人間から見ると緑はまだ弱々しく色は乏しい。そのあとエッセイを読むと、夏の緑が濃すぎる風景はつまらないとの記述を見つけました。例えば私が里山の風景を写真に撮るなら、やっぱり真夏よりは晴天の春や秋がいいなと思う。けれど、画家が繊細な色の風景を求めるとき、そこからもう半シーズンほどずれる初春や初冬を選ぶのかもしれない。そして、強い太陽の光は必ずしも必要ないのかも?読んでからもう一度展示作品をぐるりと見回すと、それが実感できた。

途中、出版物や習作の水彩画なども面白く見つつ、最後の展示室「白と黒の会」のコーナーへ。ここには向井と交流のあった世田谷在住の画家・彫刻家の作品が並んでいる。「白と黒の会」というのは、これらの芸術家のグループで、といっても画壇における派閥みたいなグループではなく、世田谷という地域でつながった飲み会グループなのだ。「白と黒」の由来は、飲み会の最初に10センチ角程度の白い紙が配られ、そこに黒いインクで各々が作品をしたためることに由来するそうで、その作品をメンバーの中の新聞社勤務の者が社に持ち帰ると挿絵として売れたのだそうだ。それが次回の飲み代になる、という永遠にタダ酒が飲める会、なのだそうです。ここの部屋は、向井作品を延々と見続けた最後に来ると、一服の清涼剤以上にエキサイティングな展示室で、気分が高揚したまま会場を後にできました。

ここからは余談。最後の展示室には向井潤吉の弟さんの向井良吉さんの彫刻作品があり、翌週、私が一緒に展示を見た子供たちは、この作品に興味を示していました。
世田美には常設に向井良吉さんの作品が2点あります。子供たちに「他のも見る?」と聞くと「見たい!」とうれしい反応。まずは地下の創作の広場で「花と女性」という作品を宝探ししながら見ると、子供が「楽しい~!」と盛り上がってくれておばちゃん大感激。(ちなみに地下には展示室はありませんが、エレベーター脇には柳原義達のかっこいい作品が、その先には谷内六郎のモザイクもあります。)そのあと外の彫刻作品を観に行くと、もしかすると子供って絵画より彫刻が好きなのかな?ほかの作品も抽象作品も含めてとても反応が良かった。

向井潤吉のことに戻ると、メモ魔だった向井潤吉は文才もありエッセイを多数残しているそうで、展示室にもかなりのボリュームでそれらが紹介されていたのですが、読み物として結構面白かった。で、それらのエッセイをまとめた書籍「草屋根と絵筆」が本展に合わせて発売されたそうです。ミュージアムショップにも売っていましたが、私はやっと世田谷区の図書館に入荷されたのを借りてきたところです。拾い読みになるかもしれないけれど、読むのが楽しみです。

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by fumiko212 | 2018-10-05 22:05 | アート | Trackback | Comments(0)

9月6館目:笠間日動美術館

水戸芸術館の次に向かったのが(市場食堂経由で)笠間日動美術館。日動というのはあの日動画廊の関係らしい。水戸に行くなら偕楽園も行きたいな~なんて思ってたけど、ご一緒したYさんがこの美術館に行ってみたいということで美術館のサイトを観たら、私が好んで見る近代洋画作品が常設であるそうで、行ってみたくなった!と言っても、企画展は興味ないし常設のフランス館だけ観れれば充分。などと思いながらゴー!水戸からはかなりと距離があって、車じゃなければ(自分なら車でもどうしようかな、、、と思う)ハシゴは厳しかった。社長、ありがとうございます。

チケット売り場の前にはヘンリー・ムーアのブロンズがあって、あ、彫刻もあるのかあと思いつつ企画展示館はパスして敷地の奥にあるフランス館へ向かいます。向かう先には野外彫刻庭園の表示。なんかこれもしかして期待できるんじゃないか?と、にわかにわくわくしだす私たち。戸外の渡廊下は青々とした楓に囲まれていて、紅葉の時期に来たら最高なのでは!(しかしこの時我々は藪蚊の襲来を受けていた、、、)
彫刻作品のラインナップはさすが日動画廊!なんだと思います。すごく充実。屋外庭園だけでなく、フランス館(テラスにも)、パレット館、企画展示館にも作品が点在し見ごたえがありました。パレット館に三宅一樹先生の木彫がありまして、今年になって世田美で知った作家さんなのですが、まだ作品を拝見したことがなく、思わぬところで作品を観られて感激でした。

フランス館は油彩画、デッサンの所蔵品の展示で、HPを見ると展示替えがあるようですが、私たちが行った日は印象派~戦後まで、充実のラインナップでした。それを私たちしかいない展示室で(蚊はいたけど)存分に鑑賞できるという夢のような空間でした。マティスが1枚もなかったのがちょっと残念(所蔵はしている模様)。思わぬ収穫はフランソワーズ・ジローの作品があったこと。この夏にジローがピカソのことを書いた本を読んでいたので、彼女の作品を観て見たかった。年代、どうだったかな、、、ピカソのそばでああいう作品を制作する度胸、、、すごいな。

先ほど書いたパレット館は、展示室の壁を埋め尽くす画家のパレットの展示がメインで、これが圧巻の面白さ。使っていた絵の具がそのまま固まったパレットの中心に小さな作品を描いたものなど、絵を描かない私でもその画家の作品を思い出しながらパレットを見るとなるほど~と思ったり、このパレットの持ち主はどういう絵を描くのだろう?と想像したり、永遠に楽しめそうな空間でした。クレーターのように淵にぐるりと固まった絵の具に囲まれたパレット、、、あれはどういうことなんだろうか?掃除しないで新たに絵の具を絞り出し続けてああなったんだろうけど、、、、掃除しちゃうと昨日からのつながりがわからなくなっちゃうから継ぎ足しながら使ってたのかなあ。

だんだん閉館時間が気になりだしたけど、渡廊下のカフェで一服して、駆け足で企画展示館へ。ここで面白かったのは「鴨居玲の部屋」という常設の展示。写真を見ると舞台役者のような濃い風貌をした男なのですが、「自画像の画家」と称された人物なのだとか。作品や遺品を展示したこの部屋の濃密な空気に画家の生々しい存在感を感じました。特に、死後アトリエに残されていたという鉛筆による習作の数々に惹かれました。画家はこうして絶えず手を動かしているのだろうな、、、
もう一つ良かったのが世界の子供たちの絵画作品の展示。偶然にも水戸芸術館では地元の小中学生の作品を観て感心したばかりだったけど、ここには恐ろしささえ感じる完成度の高い作品が並んでいました。南米、アジア、東欧など、私が頻繁に観る西ヨーロッパや日本の画家の絵画の展覧会ではなじみの薄い国の子供たちの作品にこそドキリとする作品があったりして、私が観ているアートはまだほんの一部なのだと実感させられた。

当初の予想を超えて閉館ぎりぎりまで楽しみつくして美術館を後にしました。決して広すぎないので、疲れないけど大充実の展示でした。また行きたい。

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by fumiko212 | 2018-10-05 21:20 | アート | Trackback | Comments(0)