春の美術班1:藤田嗣治展@東京国立近代美術館

b0031055_22414928.jpg藤田嗣治の生誕120年を記念して大規模な回顧展「生誕120年 藤田嗣治展」が開催されています。キャッチは「パリを魅了した異邦人」。ということで、去年パリを旅した3人と今年パリを旅したい1人で行ってきました!
藤田について知っていることは、モディリアニやスーチンと同じ時代にエコール・ド・パリと呼ばれた芸術家たちの中の1人だった、ということと、乳白色の肌と繊細な墨の線で描かれた女性の肖像画くらい、という貧弱な基礎知識で出かけました。
出品作品は、東京藝術大学の卒業制作だった自画像から始まり、最晩年、フランスに帰化し、カトリックの洗礼を受けてから取り組んだ教会の壁画(写真)まで、生涯の画業を辿る充実した内容でした。81歳まで生きた藤田。私の知っていた乳白色の絵は、パリで過ごした一時期に描かれていたもので、その後南米を旅して描いた色彩にあふれた作品、日本に帰って異邦人の目で見た日本の人や風景、日本の従軍画家として描いた戦地を題材にした大作、そして戦後、戦争責任の批判から逃れるようにパリにもどって描いた子供の姿、最晩年の聖書を題材とした宗教画、と、時代によって画題も画風も変化していきました。こう書くと、思い出すのがピカソですが、ピカソが過去の自分自身を打ち崩していく様に画風を変えていったのと違って、藤田の変化は1つのものを大事に守り育てつづけた結晶のように感じられました。

展覧会は5月21日まで。その後、京都広島に巡回予定です。



印象に残っているのは、チケットやポスターにもなっているカフェに座る女性の肖像、「カフェにて」。描かれたのは、戦後ふたたびパリにもどった時期です。大好きなパリにもどれて、心底ホッとしている気持ちが現れているように感じられました。この女性だけでなく、窓の外に見える隣のカフェの煙突や、後ろの紳士の山高帽、左のムッシュの肩にかかったクロスや脇に抱えた新聞、女性のテーブルに置かれたワイングラス。こういう何気ない小物にも目を留めて描かれているのがとても気に入りました。自分が去年パリに行って、パリらしいな、と思ったものばかりです。(山高帽の紳士には会わなかったけど。)テーブルの上のインク壷は、「アトリエの自画像」などで藤田の机の上に必ず置かれていたものと同じもので、まるで「パリにいる自分」を描いているみたいで泣かせます。

同じく、この時代に描かれた子供を題材にした作品も心温まるものばかりでした。藤田の部屋の壁を飾っていたという、子供が大人のように仕事をしている姿を描きこんだタイルがありました。10cm四方のタイル1枚に1つの職業で、大人と同じ恰好で一人前な顔をして仕事をしている子供が描かれています。1枚ずつ丁寧に見ていくと、それぞれウィットに富んでいて思わず笑ってしまう。「ミュージシャン」や「パン屋」などの普通の職業に混じって「スリ」や「囚人」なんていうのまであるのです。「警備員」はモナ・リザの前で居眠りしてるし。(職業名はフランス語(一部英語?)で書いてあります。)

それからもう一つ気に入ったテーマは、自分のアトリエや室内を描いた作品。パリ時代のものも、日本に帰ってからのものもありましたが、道具や家具、装飾品などがすごく丁寧に描きこんであって、藤田の持ち物に対する愛着が感じられ、いいな、と思いました。

最後にもう一つ。晩年の宗教画。日本人が描いたキリスト教絵画って珍しいと思うのですが、見慣れたルネッサンス画家の作品やデフォルメされた近代の画家のものともちがう、もっと身近なもののような印象を受けました。すごく変な例えですが、野茂がメジャーリーグに行った、とか、毛利さんが宇宙に行った、みたいなことがあると、それまで翻訳の世界でしか知らなかったことをより身近に感じられる、みたいな。藤田が壁画を手がけたという教会にもいつか行ってみたいと思います。

そんなわけで、予備知識がなかったからこそ、その変遷をワクワクしながら辿って観ることができて、充実した美術観賞になりました。藤田、これからはもうちょっと気にして、展覧会があったらまた足を運びたいと思います。
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by fumiko212 | 2006-04-10 22:47 | アート | Trackback(3) | Comments(2)
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Tracked from むさじんの部屋 at 2006-04-10 23:13
タイトル : パリにまた行きたい!
久しぶりにパリ気分で藤田嗣治展。 画家の作品展って大抵の画家に○○時代っていうのがあって何かのきっかけで作風が変わっていくのが面白い。 この藤田画伯も時代時代で作風がどんどん変わってくるるなかで、やっぱり目につくのは初期の作品の墨の「黒」。 初期の作品ではなんと聖母マリアの服の色も暗い色だもんね。 よくわかんないけど西洋絵画の決まり事で赤は未婚の女性、緑は母、紺は王族ってことで(確か。うろ覚え…)この三色で聖母マリアっていう決まりになってるんじゃなかったけ? 藤田のマリア、晩年の宗教画と...... more
Tracked from 花鳥風月 at 2006-04-11 01:01
タイトル : 藤田嗣治展@東京国立近代美術館
実は、あまりよく知らない日本人画家だった。ツグハルという名前ではなく、レオナルド・フジタとして私にはメモリされていたのだ。 行ってみて、もっと知らないことがたくさんあることに驚かされた。TVの特集番組でパリ時代のことを少しだけ予習していたが、それ以上に彼は世界を駆け抜けていたのだ。 私が彼のイメージとしてメモリされていた作品は、渡仏して苦労の末に一躍ピカソやマチスたちと名を連ねるようになった時代のパリでの作品で、「乳白色の肌」を特色とした繊細な線とごくごく薄い色を重ねたものだった。裸婦と「猫」の印...... more
Tracked from The Shop Aro.. at 2006-04-15 07:44
タイトル : 私の好きな日本人画家
日本人画家で誰が好きか?と聞かれたら、松本竣介もいいし、靉光もいいけれど、やっぱり藤田嗣治!絶対、藤田嗣治である。 藤田と言えば、「乳白色」と「猫」だろう。そういう固定観念があった時、 戦争画の『アッツ島玉砕』を観て、もう驚きまくった・・・。これが、あの藤田が描いたとは・・・。特に戦争画を決して描かなかった靉光の『自画像』(↓)を観た直後だったので、一段と衝撃的だった。そして藤田が非常に積極的に戦争画の制作に加わったことも知り、もっともっと彼について知りたくなった。そんな時に出会った本が、近藤史人...... more
Commented by Yuko at 2006-04-15 09:59 x
ゴッホ展に引き続き、浸りまくりました。ゴッホ展はすでに「ゴッホ・ゴーギャン展」や画集で観た作品も多かったのですが、藤田展は初期のパリ時代(モディリアーニの影響)や南米時代・沖縄の絵など、私の持っている藤田のイメージと違う作品が鑑賞できて、新たな喜びです。Fumikoさんがおっしゃている>>1つのものを大事に守り育てつづけた結晶のように感じられました。>>は本当ですね。彼の描いた細かい小物が大好きです。戦争画の『神兵の救出到る』はちょっと気持が熱くなりました。戦争画にのめり込んでしまっていましたが、この家具や装飾品をいつもの藤田流に描いたら、どんなによかっただろうと・・・。私にとって、ゴッホと藤田は2大画家です!
Commented by fumiko212 at 2006-04-15 11:48
Yukoさん
藤田ってほとんど名前しか知らないレベルだったのですが、こんな偉大な画家だったなんて!誘って頂いて良かった。ありがとうございました。
パリの「アトリエの自画像」あたりから小物の描き方にずーっと注目してたので、最後の方の部屋に手作り品がいろいろ置いてあったのが個人的に感動でした。
>この家具や装飾品をいつもの藤田流に描いたら、
そんなこと全然思いつかなかった。ブロガー美術班っていいなー。みんなの感想で更に印象が深まりますね。


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