12月の観劇記をもうひとつ。毎年恒例の「ア・ラ・カルト」、この3年は日替わりゲスト形式で上演され続けています。1年目篠井英介さん、2年目山寺宏一さん、で今年は、、、と選んだのが池田鉄洋さん。テレビドラマをほとんど見ない私にはサラリーマンNEOでのお姿しか思い浮かばないのですが、いつも一緒に行く友人とも意見が一致したので決まりです。
全部を見終わったとき、過去の「ア・ラ・カルト」ときっぱり決別した高泉さんの意志を見たような気がしました。私の受け取り方、思い込みだったのかもしれないのですが、細部にそんなことを感じました。 例えばオープニング。お皿のフリスビーがなくなっていたりして、以前から踏襲されていたスタイルが大きく変わった印象でした。タカハシくんのコーナーでは始まって以来初のシャンパーニュのテイスティングがありました。「ワインはまず色を楽しみます。はい、赤です!」から始まる一連のテイスティングシーンがまるっきり違うものに。そしてタカハシは独身に戻ってた!のりこさんと離婚したのか全く設定が変わって相変わらずの独身なのか、「〇〇ちゃんは僕のことどう思ってるのかなー?」なんてうっとりするタカハシ。お客さんたちの頭の中は「え?のりこさんどうなったの?」って渦巻いていたはず。 でも不思議と寂しい感じはなく、新しい一歩を踏み出した「ア・ラ・カルト」を、いやタカハシを(笑)ますます応援したいし見続けたいなと思える愛のある決別だったように思いました。 それは新装開店してから3回目というのもあるかもしれないけど、もしかしたらあの震災もきっかけの1つだったのかもしれないように思います。わざわざ語るまでもなく、あの震災を経て直接の被災者であった人もそうでない人も何らかの気持ちの変化を体験しているはずで、それまでの生き方を考え直すきっかけにならなかった日本人はいなかったと思います。なんでも震災に結びつけるのは嫌いなのですが、それは終盤のコーヒータイム、年老いたカップルのシーンを経て私の中に形を現した考えでした。 年老いたカップル(以前のア・ラ・カルトのコーヒータイムの老人たちよりはもう少し若い)が食後のコーヒーを飲みながらぽつりぽつりと会話しています。その会話から、女性はどこか遠方から東京のレストランにこのディナーのために上京しているとわかります。男性とは久しぶりに会う旧知の仲ではあるけれど親しい友人同士というほどでもない雰囲気。男性からの手紙を読んで、東京に行くなんて、、、と迷っていたけれど、一念発起して来ることを決意したと女性は語ります。そのきっかけになったのが女性が部屋の片づけをしていた時に棚の上から落ちてきたある1枚のレコード(この辺がちょっとうろ覚えで細部が違うかもしれません)。それは2人にとって共通の思い出の曲だった。その時に女性が「ひどい揺れだったでしょ。もう棚もぐっちゃぐちゃになっちゃって、、、」とさらっと言ったのです。別に「ひどい震災にあって大変だった」とも「東北から来た」とも何もなく、「ひどい揺れだったでしょ。」の一言だけで通り過ぎて行ったシーン。それに対して男性も「大変だったね」ともなんともなく、うんうん、とうなずくだけ。 高泉さんは仙台ご出身。今回の震災で直接的にいろいろなことが起こったのではないかと感じていました。私が普段高泉さんの発信されることをフォローしきれていないので何とも言えないのですが、同じ仙台出身でア・ラ・カルトに出演されている山寺さんが震災直後から様々な活動をされていて、そこでも高泉さんのお名前を見つけることがなく、口を閉ざしてしまうほどの大きなショックを受けていらっしゃるのではないか(そうでない人はいないこともわかった上でですが)と心の片隅でずっと気になっていました。我ながら身勝手なファンとして書きますが、高泉さんから何か言葉を聞いて安心したかったのだと思います。どんな安心なのかもよくわかっていないで書いてますが。それに私がフォローできてないだけで既にどこかにコメントが発表されていたのかもしれません。 でも、あのシーンを見た瞬間に、高泉さんの故郷に対する、震災に対する思いがこの舞台に全部こめられていたことがドーンと迫ってきました。決して押し付けるのではなく、この舞台を作り上げることが高泉さんの祈りの気持ちだったのではないかと。表現者として、本当に最高の形で私たちを勇気づけてくれたんだ。私はそう受け取りました。そしてその表現のしかたが私の大好きな高泉さん式だったのもとっても嬉しかった。 そういえば、タカハシくんのコーナーはその年の時事ネタを盛り込んで面白おかしくするのが恒例だったのですが、今年はそんな会話は一つもなかった。時事ネタを盛り込めば震災や原発事故のことに触れないわけにはいかなくなる。それ以外の時事ネタだけを盛り込んでもそれは何かを見ないようにしているようなしっくりこないシーンになってしまったと思います。タカハシくんから悲しいことを思い起こすのは私たちは望んでない。いつでも底抜けに明るくて本人がどんなに辛くて悲しくてもそう見えない。むしろタカハシが辛くて悲しいほどみんなに笑われてしまう天使のような存在。(後輩役の中山さんが「タカハシ先輩の何がすごいって、すごいんだかすごくないんだかよくわからないところがすごい。」というのですが、ホントにうまいこと言うなーと思った。)だから、あれ?のりこさんは?ああ、もしかしてこれが過去との決別なのかも、という少し悲しい事実は彼が伝えてくれるのがぴったりだったのかも。 コーヒータイムが終わり、エンディング、ディジェスティフ(食後酒)のコーナーではその日のすべての出演者がそろってシャンパンをあけて乾杯します。その時の高泉さんのセリフは、かつては「どんなことがあっても私だけは生き残りますように。」でした。それがいつからか「このレストランだけはあり続けますように。」に変わっていました。そして2011年は「いつまでもおいしい料理と楽しい会話があり続けますように。」(私の記憶です。メモしてないので違ってたらすみません。特に「おいしい料理」があってるかが微妙です。)とおっしゃいました。本当にそうだな。おいしい料理と楽しい会話、これはどんな状況にあっても人を元気づけてくれるように思います。そう、どんなに辛くても食欲があって話し相手がいれば人間まだまだ何とかなるのかもしれないです。 高泉さんって本当に素敵な人だな。そんな表現者を見続けられる自分は幸せだな。と思った2011年のア・ラ・カルトでした。
by fumiko212
| 2012-02-13 22:14
| 映画・舞台・ドラマ
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