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12月に読んだ本、とモーツァルトのこと

11月に読んだ本が抜けましたが、確か1冊くらいしか読んでません。12月もこの2冊。それ以外の時間は香港のガイドブックを読んで過ごしました。多分。最近、めっきり本を持ち歩かない人に戻ってしまっていました。いけないいけない。

「船上でチェロを弾く」は以前読んだ小説「船に乗れ」の著者による音楽エッセイ。というか音楽体験自伝。大変面白かった。著者の藤谷さんは10代に音楽高校でチェロを専攻していた経歴があり、「船に乗れ」はご自身をモデルにした私小説のような作品だった。読書メーターにも書いた通り、「船に乗れ」で自分が演奏する楽曲やクラシック作品について登場人物が語る部分があり、それが非常に率直で読んでいて共感することが多かったので藤谷さんの音楽論はぜひ読んでみたかった。

思った通りの充実した内容で、ほとんどすべてに共感。特にモーツァルトがチェロの曲を書いてないのはなぜか?を語った章は、チェロ弾きの恨み節とモーツァルトへの敬愛に満ち満ちていて面白いのなんの。世の中に蔓延している定説モーツァルト論とは全然違う、天才作曲家モーツァルトの思考と創作の変遷が手に取るように実感を持って感じられる。
これ、三谷さんの「新撰組!!」(!2つの年末特番の方)の土方と榎本の会話とか「コンフィダント」のゴーギャン、ゴッホ、スーラ、シュフネッケル4人の心情描写を思い起こさせる。想像や願望や創作を入れずに今残っている事実をたどるとおのずと浮かび上がるものを忠実に描いているということ。

モーツァルトならその作品、楽譜、それと一緒に仕事をしていた仲間や楽曲の発注者など、今得られる事実からたどった結果浮かび上がるモーツァルト像にすごく親しみが持ててくる。
一番ゾクゾク来たのは、バッハを知ってしまったモーツァルトの危機。それまで、当時流行の主旋律にブンチャッチャと伴奏をつける室内楽を作っていれば(もちろん桁外れの完成度の)発注者も喜び自分も満足だったモーツァルトが、バッハを知ってそれができなくなった。勉強のためと思われるバッハ風の楽曲やバッハをそのまま楽譜に起こした曲を数曲作っている。それはつまらない出来の作品ながら、それを乗り越えたモーツァルトは新たな音楽を獲得していくという部分。

チェロの曲がない理由の核心に迫る部分は、まあ、藤谷さんが言うまでもなく、うちのチェロの先生も言っていましたが、「身近にチェロが上手いやつがいなかった」に尽きるという結論なのですが、それに至る解説も説得力がある。
職業作曲家であったモーツァルトは注文を受けて曲を作る。ヴァイオリンの曲ならヴァイオリンでできること、音域や音色、さらには演奏者のテクニックを想定しつつ作曲する。これ、当然のことなのに目からボロボロうろこが落ちました。
だってそうだよね。現代に置き換えればすぐに納得。例えば、小曽根さんやNNHのメンバーが曲の紹介をするときがそうだ。「エリックさんのハイトーンだけでなくて、ベースのきれいな音もみんなに聴かせたかったからこのアレンジに。」とか「岩持さんのセクシーなバリトンサックスの音色を聴いてほしいと思ってこの曲を作った。」とか、彼のこのフレーズをフィーチャーしたいというところからできている曲ばかりだもの。
脚本家も、たとえば劇団の座付き作家だったら団員それぞれの個性を生かす役が登場する物語を作る。三谷さんの初期のエッセイに、まさにそのことを解説したものがあるくらいだもの。西村はこういう登場のさせ方をしないと機嫌が悪いなどなど。座付き作家のつらいところであり、その制約の中でいかに新しいものを作るかというのが腕の見せ所であり、というわけだ。
そういえば、去年の夏に青森で見た印象派の美術展では、画材の進歩により印象派の出現が可能になった、という展示を見たのだった。チューブから出せばすぐに使える絵具やそれに合った筆の開発、下塗りまでしてあるカンバスや屋外に運び出しやすいイーゼルなどの発売、そういった条件がそろって屋外での制作が可能になったことも画家たちが新しい表現を獲得した要因になったと。
制約があればあるほど作家の創意工夫が開花し、新しい技術の開発があれば作家の創作意欲を刺激するわけで、自由がプラスになるとは限らない、どんな天才であっても周囲とのかかわりの中で作品を作っているというのが芸術の面白みの最大の肝の部分なのかもしれない。
こういうのが全部つながって、面白いなーと読みました。藤谷さん版「アマデウス」を見てみたい。

「シャンハイムーン」についてもいろいろ思うところが多かったのですが、ずいぶんと長くなってしまったので機会があったら書きます。

■船上でチェロを弾く
船上でチェロを弾く面白かった!「船に乗れ」の中で登場人物が音楽作品や作曲家について語る部分にとても共感した。それが本書では全編通して読める。思ったとおりいちいち共感した。中でもモーツァルトがチェロに曲を書かなかった話が良かった。今まで音楽評論家の言うこと(または一般人が書く音楽評論)に共感できないでいたからスッキリした。聞きたいCDが一山できた。これからじっくり聞くのが楽しみだ。その中には敬遠してたデュプレも入ってる。ハイドンのチェロ協奏曲ハ長調。
読了日:12月06日 著者:藤谷 治

■シャンハイ・ムーン (創元推理文庫)
シャンハイ・ムーン (創元推理文庫)第二次対戦中、上海に逃れたユダヤ女性ロザリーと彼女の義妹となった中国女性メイリン、そしてロザリーが持っていたシャンハイムーンと呼ばれた宝石が辿った運命を紐解く物語。強制収容所の描写などもあり「オリガ・モリソヴナ」を思い起こさせた。二人の女性が運命に翻弄されながらも誇りを捨てずに愛する家族を守るために生き抜いた姿もオリガに重なった。その子供達が過去にとらわれ苦しみの中現代を生きる姿にこそ戦争の惨さ愚かさが込められているようだ。リディアとビル、リディアと母親の関係の変化、そしてNYの喧騒も見所。
読了日:12月04日 著者:S・J・ローザン
by fumiko212 | 2012-01-11 00:35 | 本・雑誌 | Trackback | Comments(0)
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