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「国民の映画」@パルコ劇場

b0031055_2514280.jpg今週の初めにパルコ劇場で公演中の三谷さん作・演出作品「国民の映画」を観ました。

舞台はナチス政権下のベルリン。史上最悪といえるこの政権下における芸術のあり方、表現のあり方をテーマにしながらも、今この瞬間の日本で日々起こっている自由な発言が許されない空気を生々しく連想させる普遍性のあるテーマが根底に流れている作品でした。それは「超」がつくほどの売れっ子になっても、むしろ売れっ子であるがゆえに多くの制約の中で作品を創っているであろう三谷さん自信の表現の自由に対する思いが溢れていたように感じました。

なりふりかまわず自分の理想を追うゲッペルス、自分の作品を創るためなら悪魔に魂を売ることを悪びれもしない女流監督、人間としての心を捨てたかのように淡々と任務を遂行するヒムラー、反ナチス作品で発禁となったにもかかわらずナチス作品に脚本を提供することになる作家ケストナー、他の出演者達も利己のためにそこに集う。誰もが自分は正しいと自分に思い込ませながら。彼らはきっとそれぞれが三谷さんの一部であり、そして観ている私たちの一部。その誰をも完全否定できない人物が12人。劇中で「あの方」と表現される1人の人物をのぞくすべての人は、どこにでもいる日々を生きる普通の人だったのかもしれない。

というのは後から思いを馳せたことで、舞台を見ているときは、一流の役者の丁々発止の演技の世界にただただ没頭した3時間でした。2月に観た、同じく三谷作品「ろくでなし啄木」の時の若い役者さんたちの力任せに突っ走る演技もあれはあれで1つの表現だけど、やっぱり本物の演技、舞台を観る醍醐味ってこういう演技の応酬なんだろうな。「どうだ参ったか」感がないのに圧倒された。

一番楽しみにしていたのは、本当に久しぶりに観る、役者 白井晃。最近では演出家としてご活躍でなかなか役者としての姿を観ることができなくなっていた白井さんを舞台で観られたのが一番嬉しかったです。12人の出演者の仲で最後に登場するゲーリング役でした。歌い踊りながら登場し、オンとオフが交互に訪れる破綻した思考と振る舞いで場を煙に巻く演技は白井さんの持ち味が最大限に活かされていたようにも思うし、新境地に立ったようにも思えました。もっともっと演技もして欲しい。

前半ではコメディ部分をひっぱる段田さんが後半最も冷酷なセリフを淡々と語る姿はそのギャップにあの時代の恐ろしさを感じさせられた。
風間さんは誰よりも活き活きしていた。余裕もあるしオーラもある。
ミュージカルの女優さんでよく名前を目にする新妻さんはちょっと頑張りすぎだったように見えた。そういう役でもあるし、あの座組みの中では致し方なしなんだろうけど三谷作品には馴染まない印象。三谷さんが絶賛する吉田さんのほうが無名にもかかわらず力が抜けてて適度な存在感。今後、三谷作品で観る機会が増えそう。

主演の小日向さんですが、彼の演技のふり幅の大きさってなんなんだろう。キャストを決めてからあてがきするという三谷作品においても、毎回キャラクターが違いすぎる。あの屈折した感じは三谷さんそのもののようにも取れるし、三谷さんがもっとも嫌う人物のようにも取れる。主役級の役者さんに見えないのに(失礼、、)そのまわりに常に場に馴染まない影が付きまとっていた印象が残っています。やっぱり主役を張る俳優さんなんだなと。
もう一人の主役ともいっていいフリッツを演じたコバさん。いつでも最後まで誠実を失わない、けれどゲッペルスの無知や無力をゲッペルス自身に思い知らせるという役はコバさんにしかできない役だった。

毎度毎度、勝手な思い込み解釈で三谷作品を観ている私ですが、先日観た「ろくでなし啄木」にしても、やっぱり三谷さんは常に自分を作品に投影しているように思えます。

図らずもかなり特殊な社会情勢の中で上演が続けられている今回のこの舞台。開演前のアナウンスや終演後に何か特別な挨拶なり募金の呼びかけなりをしているのかしら?と少し思っていたのですが、そういうものは一切なく、いつもどおり、いやいつも以上に、「舞台の幕を開け、その日の舞台を最高のものにする。」という自分たちのやるべきことをきっちりとやっている姿勢に感じ入りました。あの夜、本当のプロフェッショナルの姿が、心が折れてしまって大切なものを見失いそうになっている私を勇気付けてくれました。
震災当日と計画停電初日で都内の交通が大混乱した14日には休演し、先週末の三谷さんの朝日新聞のコラムによると震災直後の客席はガラガラだったのだとか。それでも休演を最小限に抑え劇場の灯を灯し続けている彼らに感謝。
芸術とは、表現とはなんなのか。この作品から問いかけられたテーマの答えがそこにあるように思えました。
by fumiko212 | 2011-04-02 04:13 | 映画・舞台・ドラマ | Trackback | Comments(2)
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Commented by oshi001 at 2011-04-02 22:06
新妻さんは三谷作品に馴染みませんでしたか(笑)
私は三谷作品は殆ど知らないので・・・
(好みのジャンルじゃないかなぁ・・・見てないだけかな?)
シルビアさんも新妻さんもミュージカル系の女優さんは”どうだ感”ありますね。(特に新妻さんは何時も”頑張っている感”強いです。でも歌は抜群に上手いですよ。)
Commented by fumiko212 at 2011-04-03 00:50
oshiさん
素人のたわごとですから。汗
ミュージカルではないんですが、歌のシーンもちゃんとありましたよ。すごい声量でビックリでした。鍛えてる人は違いますねー。


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