また間が開いてしまいましたが、ニューヨークとっておきの話のその後。
>>前回までのあらすじ<< レストランで音楽を聴いていた夜、そこで演奏していたピアニストとプロデューサー風のおじさんにタイムズスクエア付近のビルでやっているリハーサルを聞きに来るように誘われる。 さて、その日がやってきて、恐る恐る行ってみました。指定されたビル目指して。 ビルは普通のオフィスビル風でブロードウェイに面したタイムズスクエアのど真ん中にありました。入口は聞いていた通りセキュリティがあり、受付にパスポートとお店でナプキンに書いてもらった訪問先の部屋番号を見せるとすんなりと通してくれました。まずは、第一関門突破。 エレベーターで部屋番号の階に上がると、廊下が伸びてドアが並んでいます。目当ての部屋にたどり着いてそっとドアを開けると、狭い部屋にミュージシャン達が楽器と楽譜を持って集まり、すでに音を出していました。オーケストラのリハーサルと言っていたのでかなりの人数です。 お店で会ったおじさんが目ざとく見つけてくれて、ミュージシャン達に紹介してくれ、みんなが演奏の手を止めて挨拶してくれます。言えたのは「Nice to meet you.」のみ。緊張したー。でも、「あんた誰?」な展開になることを恐れていたのでホッとしました。ミュージシャン達も突然の闖入者を気にも止めていない様子で一安心。 とはいえ、狭い部屋にぎっしりとミュージシャン達がいるのでどこで聴かせてもらってよいのやら、という雰囲気です。おじさんが、まずはガラスで仕切られた小部屋に荷物を置くように教えてくれ、更に、そこにあるコーヒーメーカーのコーヒーを入れてくれました。なんだか嬉しくなってきた! ピアニストの彼もその小部屋付近にいて「よくきたねー。」と挨拶してくれました。覚えてくれてて嬉しかった。 最初のうちは、若いコンポーザーなのか、アレンジャーなのかが指揮をしながら、曲の一部を合わせたりしています。そうしている内にもちょっと遅れてミュージシャン達が集まってきます。大きなウッドベースを抱えて女性が入ってきました。すると、昨日のおじさんが「彼女はファントムのべーシストなんだよ。」などと解説してくれます。そうか、ここにいる人たちはミュージカルのオケピなどでも活躍している人たちなんだな。 それから、このスタジオのオーナーにも紹介してくれました。オーナーはなんとあのライザ・ミネリの弟さんなんだそうです。かなりのご高齢で腰を悪くして歩けない、と言っていました。 このリハーサルには日本人のボーカリストを目指している女性2人も参加するそうで、それもあって日本人の私を見学に誘ってくれたのだと思いますが、しばらくすると彼女達も到着したようでした。「あれ?日本人?」という感じで目が合ったので、日本語で挨拶させてもらいました。彼女達はここでボーカルを練習するためにリハーサルのお手伝いもしているようで、ミュージシャン達の楽譜のケアなどで忙しそうでした。 しばらくすると、別の見学者がやってきました。その人たちも一見日本人風で、男性1人女性2人のグループ。聞いてみると、男性は日本語新聞や日本語学校関係の仕事をしているそうで、そのアシスタントもされている日本人女性、もう一人の女性はベトナミーズなのだそうです。とても気さくな人たちで、1人ぽつんといた私にも気軽に話しかけてくれて嬉しかったです。聞くと、ピアニストの彼と前日に居酒屋で居合わせて、彼がこんなすごいミュージシャンだったなんて知らなかった!とのこと。(笑) さあ、いよいよピアニストの彼(彼は有名なアレンジャーでもある)が指揮をとり曲を合わせることになったようです。やはりミュージシャン達にも緊張が走っている様子。「162番」などと声がかかると、楽譜が200曲分くらい入った楽譜ケースから各々がその番号の楽譜を取り出し演奏スタートとなります。1曲終わるとまた次の曲、という風に3-4曲演奏したところで、「ボーカル曲やるよー。」と声がかかり、日本人ボーカリストの2人が入っての演奏になりました。前半の若い指揮者の時とは打って変わって、熱のこもった演奏が狭いリハーサルルームにあふれました。 夕方5時から始まったリハーサルは7時近くに終了となりました。こんな風にニューヨークで音楽に接する機会なんてめったにないチャンスだったと思います。本当に貴重な体験をさせてもらいました。あの夜、お店で熱心に誘ってくれたお二人に感謝です。 ところで、一緒に見学していた3人グループとの出会いも私にとってはとても印象的でした。NYに根を下ろして働く日本人の方と話す機会というのも旅行者にはめったにないことです。 男性は自分のアシスタントの日本人女性のことを、「彼女は人当たりも言いし、仕事もよくできて、本当に助かっているんですよ。彼女がいなければ僕の仕事は立ち行かないくらいなんですよ。」と語っていました。こんな風に初対面の人に自分の部下を褒めてちぎってしまうのもすごいけど、その彼女は「本当にそうなんだろうな。」ってわかるような気さくな人で、私にもいろいろと話しかけてくれました。 それから、リハーサル室にいたミュージシャン以外の人たち、お店で誘ってくれたおじさんやそのほかの関係者の人も、見学者の私にいろいろと教えてくれたり、話しかけたりしてくれました。演奏が終わった後のピアニスト(この日はマエストロ)の彼もそうでした。この部外者連れてきたの誰なんだ?なんて不審そうに私のことを見る人なんて一人もいなかった。気にもしてない感じでした。そこがまたニューヨーカーらしいな、とも思いました。場違いだったらどうしよう…、とドキドキしながらやってきた私にはそのすべてがありがたかった。 見学者だったベトナミーズの女性はピアノを弾くらしく、一緒に来た日本人の女性が「ちょっと弾かせてもらったら?」と声をかけると、「今はムリムリ~。」と答えていたけれど、スタジオの人たちも「弾けばいいのに。This is the time.」と勧めるのです。結局彼女は弾かなかったのだけれど、この"This is the time."という言葉がすごく印象的でした。この言葉もとてもニューヨーカー的だと思ったんです。 こんな風に、予定外のリハーサル見学は私にニューヨーカーのスピリットを感じる時間にもなりました。この幸運に感謝しながら夕暮れのタイムズスクエアを後にしました。
by fumiko212
| 2007-07-29 09:05
| ニューヨーク
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Comments(8)
いい話です。そして本当にNYらしい話です。
そっけないけど暖かい感じがするNYって好きです。べたべたしないおせっかいっていう感じ。そんなところが好きです。 This is the time. そんな素敵な言葉を言えるなんてねえ。
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fumiko212 at 2007-07-30 21:42
こうめさん
読んでくださってありがとうございます。この一連の話は今回のNYでやっぱり一番印象に残っているし、この出来事の為に行ったのかなー、と今となっては思うくらいです。ニューヨーカーってさりげなく暖かいから、こうやって何度もNYに通っているんだと思います。住んでいる方には別の思いがあるとは思いますが…。 This is the time. という言葉は、いつまでも心に残る言葉になりました。
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lovelysheep
at 2007-07-30 22:32
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出発前はいろいろ悩んでいたようですが、本当に行ってよかったですね!こんな体験ができるなんて羨ましい限りです。
へぇーこんなことがあるんですねー。
でも 偶然じゃなくfumikoさんがこういう運をひきつけたんだね、きっと。 >この部外者連れてきたの誰なんだ? これって日本ではよくありそう・・って思ってしまうとこがイヤね。自分の国なのに。でもよく言えば単一民族で島国だから仕方ないのかなとも思ったり。 >不審そうに私のことを見る人なんて一人もいなかった。 私もNYのこういうところが好きです。 あーますます行きたくなったよ~。
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fumiko212 at 2007-07-31 21:54
ひつじさん
本当に行ってよかったです。小さなコミュニケーションは沢山会ったけど、こんな体験は初めてでした。そして、これからもそうあるものではないと思います。 でもひつじさんはもっといい思いとか、してるんだろうな~。
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fumiko212 at 2007-07-31 21:57
みいこさん
音楽聞きに行ってミュージシャンと話せるところくらいまでは、もしかしたら?の想像の範囲内だったけど、ここまで来ると、こんなこと起こるのか?と自分でもビックリでしたよ。 今思うとつくづくリハーサル室にいたミュージシャンの人たち、関係者の人たちの寛大さに頭が下がります。私なんて、会社で監査の人たちが入ってきた入りするとジロジロ見ちゃいますもん。笑 ニューヨークの良さって、実はこういう人とのかかわりの部分にあるなあ、と改めて思いました。みいこさんもニューヨーク行ってくださいねー。
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MOMO
at 2007-08-13 02:02
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私もTVで観て、機会があったらあのお店に行ってみたいと思っていました。
fumikoさんは実際に行かれて、しかもリハまで見学されたなんて、素敵ですね! この出来事の余韻だけで、1年間は乗り切れますね。 彼が中心のMJQは、日本のレコード会社の企画で結成されたりと、日本とのつながりは半端でなく強いんですよね。 彼の端正なアレンジ・ワーク振りから、クールな人かと思っていましたが、あの番組(前に登場した時も含め)で彼の印象が180度変わりました。
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fumiko212 at 2007-08-13 03:22
MOMOさん
MOMOさんもご覧になりましたか!お店はまさにあの雰囲気のままでしたよ。このリハーサル室も同じ番組で取材していたの覚えてますか?あそこにお邪魔したのです。 >クールな人かと思っていましたが、 確かにリハーサル中はクール、でも話すとあの番組のままです。人なつっこくて、気配りが素晴らしい方でした。 >この出来事の余韻だけで、1年間は乗り切れますね。 そうですねー。常に鬱々としている私ですが、そういう時はこのこととかNYの楽しかったことを反芻すればいいんですね!
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