パルコ劇場で公演中の三谷幸喜作・演出の新作舞台「コンフィダント・絆」を観た。
三谷さんがパリを舞台に画家たちを主人公にお芝居を作る。自分にとってはすごく興味がある題材だけど、三谷さんが選ぶ題材としてはかなり意外だった。 テーマは「果たして芸術家たちの間に真の友情は成り立つのか?」。 画家はポール・ゴーギャン、フィンセント・ファン・ゴッホ、ジョルジュ・スーラ、そしてクロード・エミール・シュフネッケル。それから4人の専属モデル、ルイーズ。 あれ?ロートレックは?スーラがここに入るの?シュフネッケルって誰だっけ?と、ゴッホとゴーギャンのつながり以外はあまり良くわかっていない自分なのであった。果たしてどんな舞台になるのか?1人の女性をめぐる思惑が交錯し、息詰まる会話劇になるのか?いや、まだアルルに行く前のゴッホとゴーギャンだ。。。うーん。想像がつかない。 当日券での観劇だったのでチケットをゲットしたのは開演後。開演前の客席にはフレンチジャズが流れ、本当なら気分が盛り上がっている時間帯も外でソワソワ。テンション下がるなあ。相島が演じるクロード・エミール・シュフネッケルが舞台に登場したところで席に案内された。 舞台はモンマルトル、4人が共同で借りたアトリエ。ゴッホが注文を受けて描いた絵が売れずにガックリと落ち込んでいる場面から始まる。 この最初のシーンの一連の会話で、三谷さんがこの画家たちを題材にしたことがすっと腑に落ちた。 「新選組!」のときもそうだった。ある興味深い歴史上の出来事や事実がある。志を持った人間が狭い場所に同じ時代に集まっていた。彼らが成し遂げたことはわかっている。けど、そこに至るまでには彼らにも普通の生活があったはず。彼らはそこで何を話し、何を考えていたんだろう? 今回は画家たち。残された作品があり、後の評価がある。でもその絵を描いていたときの彼らは、その絵が後にどんな評価を得るのかも知らず、そのときを生きていた若者だったはず。彼らは何を話し、何を考えたのか? それともうひとつ。画家たちには創作の悩み、売れないことへの不安がある。仲間の成功を喜び、才能を称えながらも、羨み、時には妬む気持ちがあったはずだ。成功を夢見る、そしてお金のない若き芸術家たちの姿は、劇団を旗揚げした頃の彼らの姿そのもの。三谷さんが同世代の俳優さんたちと創ることにこだわった芝居のテーマとしてピッタリではないか。すでに点描画の手法を確立し、仲間から一歩先に世に認められていたスーラが中井貴一、まだまったく売れていない3人の画家が小劇場出身の生瀬、寺脇、相島。 細かいストーリーは抜きにして個人的な感想を。 私にとっては、やはりゴッホとゴーギャンの関係がどんな風に描かれるかに興味があった。 アルルでの短い共同生活の後に悲劇的な形で離別することになる2人がパリでどのような関係にあったのか?三谷さんはそのあたりをどう描くのか? ゴーギャンに画家仲間のリーダーとして信頼を置いていたゴッホに対し、ゴーギャンはテオの援助を受けることを目的にゴッホの誘いに乗っただけ、というのが私の持っているイメージ。 でも、三谷さんが描く2人の関係はそれだけじゃなかった。 ゴッホはゴーギャンを兄のように信頼している。困ったときは彼が助けてくれる。ゴッホは自分の才能に自信がない。だから、仲間の賞賛が必要なのだ。ゴーギャンは自分の才能を理解してくれている。でも三谷さんのゴッホは神のような才能を持ちながら世間に認められず、傷つきやすい純粋な男、というだけには描かれていない。実は自分の才能は自分が一番良く知っているようだ。だから弟が自分を援助し、自分が落ち込んだときには仲間が「君はいい物を持ってる。世間がわかっていないだけだ。」と言うのは当然だと思っているふしがある。 ゴーギャンはそんなゴッホがうっとうしい。「ヤツはなんでいつもオレだけに打ち明けるんだ!」というセリフがあった。生活のためにいかがわしい仕事もしている自分に対し、いい年をして弟の世話にになっているゴッホ。オレはどこでもやっていける、という自負がある。あんな面倒なヤツとは縁を切れたらどんなに楽だろう。でもゴッホに請われると手を差し伸べずにはいられない。それに彼の才能。自分には到底かなわない。ゴッホもそう思っているのが悔しいが、それが事実なのだ。 いつもゴッホの側から2人の関係を見ていた私にとって、ゴーギャンの側からこの関係を見てみるとまったく違う印象を受けることに気づいた。そうか、ゴーギャンはテオの援助だけじゃない、ゴッホのそばで彼の創作活動を見ていたかったのではないか?それでもなかなかアルルに旅立たなかったゴーギャンは迷っていたのではないか?彼の素晴らしさを目の当たりにしながら自分は創作活動を続けられるのか?と。 ゴッホ好きの私にとってはヒールだったゴーギャンが、急に人間くさく見えてきた。演じているのが寺脇さんというのもあるのだと思うけれど。逆にゴッホだって純粋なだけじゃなく、結構したたかなところもあったのでは?と思えてくる。lこっちはこっちで生瀬が演っているのだ。 ゴッホとゴーギャンだけではない。仲間内では出世頭のスーラも、そして最後にはシュフネッケルも苦悩する。 そして4人の友情は?前に進むためには同じ関係を続けていくのはもはや不可能なのか? 自分にも思い当たるところがある。かつては同じ時間を過ごし、いつでも一緒だった友達。時を経てお互いの生活環境が変わり、考え方も少しずつずれていく。たまに会って思い出話をするだけの関係になることもあれば、それぞれの環境をつかず離れず認め合い友達関係は形を変えながらより確かなものになっていくこともある。ただ楽しかった関係が微妙にゆがむそのとき、本当の絆が生まれるのかも。 くどくどといろいろ考えたけど、画家たちの言動はいかにも本当にそんなことを言いそう、やりそうなものばかりで、笑いもたっぷり。舞台上で演奏されるピアノと堀内さんの歌、さらには男性4人の微妙なコーラスもありの音楽劇でもあり、洗練された大人の雰囲気で、三谷さんらしいお芝居でした。 そうそう、男4人の舞台で紅一点以上の輝きを放っていたモデル・ルイーズ役の堀内敬子さん。「12人の優しい日本人」のときは本当におばちゃんなのかと思ってた。「有頂天ホテル」では別人のように若くてかわいくてびっくりした。そして今回は、美しい歌声とキリリとした立ち姿、愛嬌もあって素敵な女性だった。三谷作品続投中で、今後も観る機会が増えそう。次はどんな役で登場するのか楽しみです。 私は今まで、好きなアーティストの作品をきっかけにして、自分のぜんぜん知らなかった新たな世界に興味を持つことが多かった。今回は、三谷さんのお芝居と、ゴッホやゴーギャンたちの世界という、それぞれ別々に好きだった芸術がクロスしたことで、新たな視点で観るきっかけをもらった。こういう喜びはまた格別。早速「月と六ペンス」を読んでみよう。
by fumiko212
| 2007-04-14 20:57
| 映画・舞台・ドラマ
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Comments(4)
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yuricoz at 2007-04-15 11:12
あそこの当日券って、ほんとそうなんですよねーーー。もっと、良い売り方はないのでしょうか?
>堀内敬子さん。「12人の優しい日本人」のときは本当におばちゃんなのかと思ってた。 ↑笑いましたっ!!
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fumiko212 at 2007-04-15 17:49
yurikoさん
そーですよね?待っててくれるものとばかり思ってました。もともとが招待席だからぎりぎりまで待つんだろうけど、、、 >本当におばちゃんなのかと思ってた。 街で芸能人見かけたら役名で話しかけちゃう人みたいですね。笑
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yuricoz at 2007-04-18 12:45
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fumiko212 at 2007-04-19 22:11
yurikoさん
私も役名で呼んでる芸能人いっぱいいますよ~。それっていつの役だよっ、ていう古い役名とかで通ってます。うちの中でだけ。笑 堀内敬子さんはほとんど同じ年でした。おばちゃんと思って申し訳なかった、っていうか立派なおばちゃんか、、、笑
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