昨日、デュフィ展に行ってきました。もともと好きな画家ですが、今回のような回顧展で生涯にわたる作品を一度に見られる機会は私にとっては初めてでした。
展覧会の冒頭で、現在のデュフィ作品の芸術的価値が低く見られている(芸術作品というより装飾と扱われることが多い)ことをあげ、今回の展覧会でそこを再発見してほしい、との思いが込められていることが掲示されていました。 私の中でも、好きな画家だけど芸術的というより装飾的に好きという感覚は確かにあるかも。そこの部分がユトリロとちょっと似ている気がします。 そして、その主催者の意図はちゃんと伝わって、展覧会を観終わる頃には芸術的な挑戦をし続けたデュフィの人生に感動している自分がいたように思います。 冒頭、20代の作品では、マティスのフォービズム、セザンヌの立体的な表現などに影響を受けた作品が並びます。今見れば微笑ましいものですが、その時代の若い画家の衝撃度合を想像すると、改めて元の作品(マティスやセザンヌ)のオリジナリティのすごさを実感できます。その模倣に埋没せずに次に進んだ先に自分のオリジナリティを獲得した画家の作品だけが私たちの目に触れる形で残っている。そういう部分が音楽と一緒だなーとつくづく思います。逆に最初からオリジナルだけでやっている人というのは引き出しが増えないから結局はどれも同じような作品になっちゃてつまらなくなる気がする。 デュフィに戻ると、セザンヌの影響を受けて描いた作品の制作年を見ると、年齢でいうと30歳を少し超えたころのものでした。今でいう30歳というとそれなりに世に出ていなくちゃいけない年齢のような気がするけど、この時点ではまだまだなのです。 その後、テキスタイル作家としての活動の時代。30代はまるまるその活動に費やされていたような印象です。画家としてでなく、デザイナーのような活動が続く30代。その時のデュフィの心中やいかに、と思うとちょっと胸が苦しくなる。 1920~30年代、デュフィ40代といったところだと思いますが、グッとくる作品が増えてきます。線と色がずれた表現は版画、テキスタイル制作過程で獲得したものだと解説にあり、それがデュフィのオリジナリティに昇華されているのを目の当たりにできた。ポストカードを買ってきた「突堤-ニースの散歩道(1926年頃)」という作品。左隅に一人の女性が去っていく後姿、彼女の進行方向の後ろ側に少しずれたようにすっと赤い色が塗られている。足早に去っていく赤いドレスの女性の姿が目の端に写り、あれ?と思った時にはすでに視界からいなくなっているのに赤い残像だけが見えているような。これか!と自分の中でピンと来た1枚でした。 この年代のカテゴリーに「ゲルマ袋小路のアトリエ」という作品がありました。パリのデュフィのアトリエを描いたもので作品年は1935/52となっています。そこに描かれていたアトリエの1室の壁紙が、「三十年、或いは薔薇色の人生」の背景にそっくりに見えました。あの作品はパリで描かれたのか?制作年は1931年なので微妙ですが…。ゲルマ袋小路、、、次回チェック。 このエリアには「電気の精」のリトグラフ(にデュフィが加筆)もありました。壁画では圧倒されて細部をよく覚えていなかったので、今回、こんなだったっけ?と確認できました。左端のオーケストラの上に飛んでる人が電気の精だったんだ。。。今写真を確認すると、室内を円形に取り囲む壁画の部屋の入口の右上に位置する部分で、何となくしっかり見ていなかったような気がする。あーーー、もう一度行きたくなっちゃうじゃないか。 デュフィが芸術家としての名声を獲得したのはこの電気の精1937年(展示されているリトグラフは1952-53年)なのだから、「薔薇色の人生」の時にはまだ人生が微笑んでくれたと思えていなかったんだよね。。。ケスラー一家には最初の肖像画を受け取ってもらえなかったというし。。。 このエリアにはもう1枚、印象に残った作品がありました。黒で光を表現することに挑戦したと解説にあったもので、晩年の貨物船の作品につながると説明があったのですが、その貨物船よりも私はこっちの時代の黒の光の方が成功しているように見えました。海面が逆光で黒々と光る、明るすぎて空が青を通り越して黒く見えることって実際にある。その瞬間が黒の光で画面にあらわされていたんです。タイトル忘れてしまって残念。 いよいよ晩年の作品。私が一番よく知っているのはこの時代だったんだ。 30年代の作品のような、明るい画面からあふれる気迫、という印象は薄れていく。関節の病を患い室内制作が多くなった時期でもあったそうで、成功の後は再び思うように描けない時代だったのかもしれない。 展覧会の最後に展示された農家の作業風景を描いた作品。タイトル忘れてしまったけど、目録を見ると多分「麦打ち」1953年。解説に「デュフィが亡くなった朝、イーゼルに架けられていた作品」とありました。この言葉に胸が熱くならないはずもなく、そこにデュフィの姿が見えてくるようでした。イーゼルにかけっぱなしの期間がどのくらいあったのかはわかりませんが、死の直前、最後の体力を振り絞って描いていたのかもしれない作品です。農民が抱える麦の穂の束の線は筆に任せて描いたように見えます。それでも最後の瞬間まで筆を握っていた。そんな人生ってなんて素敵なんだ。 私事ですが、先週、金曜日に仕事で訪問した末期がんの患者さんがその翌日に亡くなったことを月曜に聞いたばかりだったのもあって、胸が締め付けられるような思いでした。 「人生は自分に微笑んではくれなかったが、自分はいつも明るく人生を見つめている」 この言葉の後に「電気の精」大成功を収めたデュフィ。でもやっぱり最後の瞬間までこの言葉通りに生きた画家だったんだと改めて思います。デュフィ、もっと見たい。 写真はパリ市立美術館の「電気の精」。
by fumiko212
| 2014-06-15 10:12
| アート
|
Comments(1)
Commented
by
desire_san at 2014-07-22 09:45
こんにちは
私もデュフィ展を見てきましたので、興味深く読ませていただきました。「電気の精」はすばらしい作品で私も感動しました。 鮮やかで豊かな色彩と見事な軽快な筆さばきで描かれる生きる喜びを感じさせる明るい絵画を見ると気持ちも明るくなりました。 私は過去に来日したデュフィの傑作も含めて。デュフィの魅力について掘り下げて整理してみましたて。ご一読いだき、ご感想、ご意見などコメントいただけると感謝致します。トラックバックも歓迎致します
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