GW中唯一にして最大のイベントは岡本太郎をめぐる1日。美術班企画「太郎Day!」。
1つ目は近代美術館でやっていた「誕生100年 岡本太郎展」。震災ですっかり印象が薄れていますが、今年は岡本太郎生誕100年の年。2006年に没後10年の企画を持ちかけたところ、敏子さんが「太郎は死んでない!」と反対して実現しなかったという話をほぼ日で読みました。100年の記念なら敏子さんも喜んで賛成してくれるに違いないと。 私にとって岡本太郎が大きな存在になったきっかけは、太郎が亡くなってから数年経った頃に読んだ「今日の芸術」という著書でした。女優の高泉淳子さんが、「この本に何度勇気付けられたかわからない」と、ご自分の一番の愛読書として紹介されていて読んでみました。私も何度も何度も読み返し、そのたびに勇気付けられています。創作活動をする人が感じる「勇気付けられている」のとは少し違うかもしれない、と書こうと思ったのですが、「芸術は人生そのもの」という太郎の言葉を思い出し、創作でなくても同じように勇気付けられていいのだと思い直しました。何度も読んでいるのにそんな風に思ってしまうなんて、まだまだだ。 相変わらず前置きが長くなりましたが、太郎Dayです。 会期末ギリギリに見に行ったから仕方がないのですが、チケット購入の行列はかなりのもの。やや怯みつつ会場内へ。 複数の彫刻作品が怪しい光に浮かび上がる「ノン!」の回廊を抜けてパリ時代の絵画作品へ。この展覧会で一番印象に残った作品に早くもここで出会ってしまった。 「空間」というタイトル。暗い背景に浮かぶ1本の棒と風にはためくように舞う1枚の布が描かれた抽象画です。 解説文にはこの時代の太郎は対極にある物体を描くことに没頭していたこと、そしてこの作品では硬い棒とやわらかい布の対比を表現したのだろう、とありました。その解説文にどうしても違和感を感じている自分。私には微妙にぶれたように描かれた棒はゴムでできているようにやわらかくしなりを持って、そしてふわっと舞っているはずの布は鋭利な刃物のように見えたのです。本来の硬軟が逆転している、という意図を持って描かれたような気がして仕方がない。まあ、解説文は専門家が書いているのだからこれは単なる私の印象だけど、太郎に聞いたら「そうだよ」と言ってくれそうな気がする。 最初のところからかなり長居をしてしまった。 次のコーナーは「「きれい」な芸術との対決」。これは「今日の芸術」の中からの言葉です。「芸術はきれいであってはならない。」 ここに代表作の1つ「森の掟」が展示されていました。解説文には、前年に発表した「重工業」を評論家たちが一様に「現代文明へのアンチテーゼ」と評したことを嫌った太郎が、より意味がわからないものを描いてやろうと取組んだ作品と紹介されていました。これだよ。これも「今日の芸術」に書いてあったことそのままの太郎だ。 勢いのある油絵作品がつづきます。黒々とした太い線が画面をのたうつ作品。私には絵画作品というよりは現代書家の作品のように見えました。ただ違うのは、文字は意味を持ってしまうけれど、太郎の書はそこにこめられた魂だけが迫ってくるところ。それから、太郎が潔いなと思うのは、作品にちゃんとタイトルをつけているところ。「無題」とか「No.なんとか」なんていうのはなんとなく卑怯な気がしてしまうから。 つづいて縄文土器のモノクロ写真。「「わび・さび」との対決」のコーナーです。私たちが日本的と思っているものはほとんどが中国や朝鮮半島から伝わったもので、真に日本的ではないと「今日の芸術」でも述べられています。 歴史の授業では、縄文土器=原始的、弥生土器=機能、性能、デザインすべてにおいて進歩的、という風に習いました。けれど、太郎は縄文土器は弥生土器に至る発展途上のものではなく1つの造形として完成しておりすぐれていた、と考えていたそうです。そういう視点を持った太郎が写した縄文土器には、エコール・ド・パリの画家たちが魅了され新たな芸術を切り開いていくきっかけとなったアフリカの仮面と同じように、生活の中から生まれた、但し用の美だけではない、芸術作品としてのたたずまいが感じられます。「芸術家」などという概念は存在しなかったであろう古代の芸術。これも「今日の芸術」のなかの言葉ですが、「芸術はすべての人が創るもの」が実現しているのです。 「消費社会との対決」のコーナーでは数々のパブリックアート作品に関する展示がありました。太郎はパブリックアートの仕事に積極的に取組みました。 これも「今日の芸術」の中で語られているのですが、日本では芸術作品は身分の高い人間しか観ることができなかった時代が長く、今でこそすべての人が親しく芸術作品を見ることができるということになっているが本当だろうか、と。研究者でもめったに見られない美術作品、展覧会に展示すると価値が下がるといわれる茶道具、などが引き合いに出され、見ると減る芸術なんてあってたまるかと論じています。 このことについて、今でも思い出すあるやり取りがあります。それはニューヨーク観光に関する質問がやり取りされているインターネット上の掲示板で、定期的に繰り返されていました。 「メトロポリタン美術館は1ドルでも入れるって本当ですか?」という質問に対して、「それは事実だが、あの絢爛たるコレクションの価値を考えたら1ドルで入場しようと考えるなんてとんでもない。あなたは芸術の価値がわからないのか。」という意見が正論として語られ、多数がそれに同調していました。 この回答こそ太郎が語っていた日本人の芸術に対する態度そのものです。まさにこのことに太郎は触れていました。「フランスでは日曜日にはルーブル美術館が無料(当時)で開放され、誰もが自国の超一流の芸術作品を自分のもののように親しく見る事ができる。」と。日本の芸術が遅れていることの原因がこういうところに表れている、というのです。 芸術なんて難しくて自分とは無縁のものだ、などと思ってはいけない。芸術はすべての人が見るべきなのだと。 だからこそ、太郎は美術館にわざわざ行かない人でも親しく見られるパブリックアートに積極的に取組みました。先日の「日曜美術館」で、山下先生が「明日の神話」が渋谷に展示されることに決まったのも、太郎のこの精神に基づいてのことだ、と説明していました。 最後に「今日の芸術」の原稿が展示されていました。太郎の著書は養女でもあった敏子さんが口述筆記し、それを清書したものに太郎が手を入れて完成させていたそうです。口述筆記のメモとそれを清書した原稿が展示されていました。 展覧会場を出るとミュージアムショップで1冊の本に目が留まりました。「岡本太郎の"書"」という本です。ページをめくると文字や短い言葉を絵画のように描いた作品が並んでいました。私が絵画作品から受けた「書」の印象はあながち間違っていなかったのかもな、と思いました。でもやっぱり意味のある文字よりもさっきの黒々とした線のほうが多くを語っているような気がしてなりませんでした。
by fumiko212
| 2011-05-15 19:48
| アート
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