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再会、そして感動

行ってきました。オルセー展2010 ポスト印象派。
入場17時20分、退出18時10分。正味50分の鑑賞時間のうち、30分以上の時間をルソーの「蛇使いの女」の前で過ごしました。本来ならここに画像を貼り付けたいところですが、中途半端な画像を見て、実物の感動を薄れさせたくないので文章だけで行きます。

ルソーの蛇使いの女は、10章からなる展覧会の第9章の部屋にあります。展覧会の最後から2つ目の部屋。ほとんど出口の手前です。最初の部屋はモネを中心とした印象派の画家の作品が集まり、いきなり展覧会の見所になるのですが、1枚目のドガを見ながら全然集中できていないことを悟り、一気に一番奥の部屋まで早足に向かいました。そして、目の前にあの絵が現れて、、、

この絵を見るのは17年ぶり。一番好きだといいながら、実物をみるのは2回目でした。先日のエントリに書いたとおり、前回見たときは何がなんだかわからないままただただその絵の魔力に飲み込まれて、何一つ覚えていなかったことがわかりました。
まず、絵の大きさが想像よりもずっと大きく、そしてもう少し横長の長方形だと思っていた形も正方形に近いというところから違った。人の記憶とはあてにならないものです。

改めてこの絵を正面から、少しはなれて、近くから、右側から、左側から、眺めつくして、いろいろなことに気づきました。

まず最初に目に付いたのは、右側の森の暗さと、左側の空と水面の明るさの対比で、ルソーは多数の密林絵画を残しているけれど、こんなにはっきりと画面中央で明暗が分かれているのはこの作品だけだということ。それが、この作品に他の密林シリーズとは一線を画す完成度をもたらしているような気がしました。

近づいていくと、また新しい発見が。白々とした満月が昇った空は、満点の星空でもあったということ。画集や解説文では「夜の密林」と表現されることが多いけれど、きっとこれは夜明けが近づいてきた時間帯。これから登ってくる太陽が地平線の下のほうから少しずつ空の色を薄めているんだけど、まだ月の光のほうが強い、というギリギリの時間帯。星は少しずつ薄れて空に溶け込んでしまいそうだけれどまだ存在感を残している。

蛇使いの女の右脚は後ろからの月明かりを反射して白く輝いている。そうか、これは逆光に暗く沈んだ森の緑が背後からの光を受けて静かに輝いている絵だったんだ。
背後からの月明かりに照らされた絵といえば、思い出すのがMoMAにある「眠るジプシー」。砂漠に横たわるジプシーに寄り添うライオンの背中も同じように後ろからの光を受けて静かに光っていた。それを見つけたとき、この光はポスター(印刷)では再現できないということに気づいていたんだけど、「蛇使い」も同じだったんだ。

自分が、ある風景に出会って写真を撮りたいな、とカメラを向けると、画面の半分が明るく、半分が暗く、露出をあわせるのに苦労することがあります。それは、その位置で風景を切り取ると、魅力的な構図になる、となんとなく自分が感じているからだと思うのですが、この絵はまさにその切り取りたかった光と影のバランスだったんだ、ということもわかってきました。逆光が作り出す陰影を私は美しいと感じるのだな。

光の次は色。ルソーはこの絵を描くとき30種類以上の緑を使ったといわれています。1つの緑を塗り終わると、パレットをすべて洗い流し、新しい緑を作ったというルソー。夜明け前の夜空は白に溶け込みそうな淡いグリーンだし、画面右側のたくさんの花をつけている背の高い植物の花の色はブルーに見えるのだけどよーく見るとやはりグリーンが混ざっていることがわかる。
水面は手前側は空の色、奥のほうはその向こうにあるシダのような植物の深い緑を映して月の光を受けて輝いている。
そのたくさんの緑を中心の蛇使いの女の黒が引き締め、調和させているのだけれど、女の体全体も深い緑色だともいえる。ではどこが一番強い黒なのか?しばらく見ていたら、女の瞳がくっきりと描かれていて、自分を絵の中からじっと見つめ返していたことに気づきました。その瞳が本当の黒だった。瞳の回りはこの絵で一番明るい色、白(白目の部分)で縁取られている。確かMoMAの「夢」に描かれた女神はソファーに寝そべり真横を見つめていたはず。画面の中の人物が、こんなにしっかりと視線をこちら側に投げかけている密林絵画はこの作品だけなんじゃないだろうか。

こうして細部を見つめ倒した後は、四の五の言わずにただただ絵の中の音楽を聞くように、わずかに聞こえるであろう水の音、葉のこすれあう音に耳を澄ませるように、絵の世界に没入しました。そのときによぎったのは、この絵を過去2回のパリ旅行で見られていたら、それぞれの旅の印象はどんな風に変わったんだろうか、ということ。自分でも想像が付かなかったです。

会期はまだまだあるけれど、その期間中に何度も通うこともできるけれど、できれば、何年かに1回でいいので、この絵に会いにパリを訪れたいと思いました。

日本語がめちゃくちゃですが、この感動が薄れないうちに記録を残したくて一気に書きました。後日、画像も追加したいと思います。
by fumiko212 | 2010-05-31 21:56 | アート | Comments(2)
Commented by さちえ at 2010-05-31 23:24 x
好きな作品ならではの詳細な感想と解説、図録を見ながらおさらいさせていただきました!
いい環境で堪能できて良かったですね。
この展覧会は先手必勝!と思って、みんなに「早く行ってね!」と薦めまくっています。
わたしは今までオルセーが苦手だったんですが、それは所蔵作品に対してではなく、あの箱の動線がダメなんだ、ということがよくわかりました。
>この絵に会いにパリを訪れたいと思いました
あぁ、わかります。
わたしにとってそれはオランジュリーのドランの作品やルーブルにあるフェルメールの「レースを編む女」なんですよ。
これらの作品を見ると「ただいま、パリ!」って気持ちになります。
って、まだ2回目なんだけどね(笑)
Commented by fumiko212 at 2010-06-01 21:02
さちえさん
想像以上にすいていたのでラッキーでした。
勤め人にとっては6時までというのがネックですねー。今回はターゲットが決まっていたので充分でしたけど、全体を見たいと思っていたらやっぱり金曜日なのかなー。平日休み羨ましいです。

私は次こそパリでこの絵を見たいです。それから、ルソーの密林絵画にインスピレーションを与えたという植物園にも行かなくちゃ。
次はいつ行けるのかなー。さちえさんとパリでご一緒したいです。


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